yokoken001’s diary

読書メモ・レジュメ・レポートなど

Mizuno (2009), Introduction

Hiromi Mizuno, Science for the Empire– Scientific Nationalism in Modern Japan,

(Stanford University Press, 2009)

 

Introduction

  • 1942年7月:座談会「近代の超克」が開催.日本の血と西欧の知をいかに調和させるか?→最も問題のあるトピック=科学.

←日本の近代化は,(1)西欧によって近代化・文明かされた国家であると認められること,(2)国家のアイデンティティを打ち立てるべく日本の特異性を讃えること,という2つの相反する野望によって形成された.

←科学についての議論が困難であったのは,「近代的であるが,西洋的でない科学」を考えることが極めて難しかったから.

:近代科学:普遍的に立証・適用可能であり,ローカルな文化論理を重要でないものにさせる.

⇄帝国日本は,神話が国家アイデンティティの絶対的な核を構成しており,それは,近代科学によって重要でないものにさせることが不可能であった.

(神話:国家神道.日本は,紀元前660年に天照大神によって建国されたとされる.明治政府も神武天皇即位の日を建国記念日(2.11)とした.)

→国体の独自性を宣言することで,帝国の神話が憲法・法律に統合され,アジアにおける植民地化やWW2の動員を正当化するために用いられた.

  • 東洋の倫理と西洋の科学の同時促進はうまくいっていたが,日中戦争以後このような二項対立の特徴づけは存在しなくなり,西洋的であるとみなされるものが禁止されていく.⇄科学は,もはや「西洋的」なものとみなされなくなり,抑圧されなかった.(ex:

日本科学史学会の設立は1942年)

 

  • 本書の問い:戦時期の科学振興は,どのようにして,合理性(=神話を否定するもの)と,国家主義(=神話を促進する)の両方を擁護したのか? 日本人が「する」ことを期待された科学とはどんな種類の「科学」だったのか?「科学的日本」の「科学的」とは何を意味していたのか?
  • ここでいう「科学的」とは,〔科学の中身を〕定義する実践ではなく,政治的・イデオロギー的実践である.

→本書の狙いは,帝国日本が本当に合理的・科学的であったのかをジャッジすることにあるのではなく,当時の知識人・政策立案者によって,何が科学的であるとみなされ,主張されたのかを見出すことにある.

=「科学的」という言葉にある政治性(politics)を解剖すること.

  • 科学とナショナリズムがどのようにして協働していたのか?(←註8: 日本研究と科学論の不幸な距離を反映している.=日本研究で科学史は小さな下部領域とされ,科学論は西洋社会に専ら焦点を当ててきた.)

 

  • 本書の主人公:戦間期・戦時期の「科学的」日本の推進者の中で,最も影響力のあった3つのグループを取り上げる.
  • 技術官僚→第一部 (1–2章):工人倶楽部とその創設者である宮本武之輔を中心に,技術官僚の地位向上運動を検討する.⇄ファシズム(非科学的な潮流)
  • マルクス主義知識人→第二部(3–5章):戸坂潤,小倉金之助三枝博音ら=唯物論研究会の中心メンバーを取り上げる.⇄法科系官僚
  • 通俗科学の作家→第三部(6章):原田三夫を取り上げ,「科学的」という言葉に込められた「自然の不思議さを経験・理解する」という意味を検討する.⇄科学知識を欠如した一般人
  • 彼らの顕在性と重要性の他に,彼らが言説(discourse)を書いて,出版していた,という事情も,本書が焦点を当てる理由である.

→本書では,これらの言説を批判的に分析する(=どのようにして語られ,表現され,説明され,どこで言説が生成・消費されたか,に注目する).※検閲の下での言説.

→3つの集団は,太平洋戦争が開始するまでに,「科学的な日本」の過去,未来,ユートピアを構築することに参加していた.

  • 科学的ナショナリズム(Scientific nationalism)」:科学と技術が国家の統合,生存,前進にとって最も緊急かる重要な資産であるとする一種の国家主義.この概念が,戦間期・戦時期日本の科学政策を作ってきた.(現在もそうである.)

 

  • 本書が扱う時期:1920年代~

明治維新以降,科学は推進されてきたが,1920s以降は以下の点で様相が異なる.

(1)産業化が成熟する:WW1後の重化学工業化(heavy and chemical industries).

(2)研究開発が推進される:国産奨励を目指した研究開発の推進 (ex 理化学研究所)

(3)1920s初頭に科学が普遍化する(universalized):どのような文化の下でも近代的な科学・技術が生産できるという理解のもとで,国内で科学・技術が推進される.

(4)労働階級の矛盾が強まる:貧富の差,地方・都市の差.→ロシア革命(1917年),日本共産党(1922年).

→3つの集団が出現するマトリックスを形成していた.