yokoken001’s diary

書評を中心に記しています。

鴻池留衣『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』を読みました。

 

 何かすごいことが書かれていたという漠とした余韻を残しつつも、結局何が言いたいのかよくわからない作品だった。

 単行本の帯に書かれているように、本作は「ポスト真実」の時代をテーマにした作品のようにも思える。というのも、登場するのは、架空のバンド「ダンチュラ・デオ」をコピーした偽バンドであり、その「ダンチュラ・デオ」についてのWikipediaページの項目に沿って、物語が進行していくのだ。

  ある時、慶大のバンドサークル「キエンギ」内で、主人公の僕がふとしたことから、喜三郎が言及した「ダンチュラ・デオ」の名前を聞いたことがあると言ってしまったことを発端に、その架空バンドをコピーする活動が始まり、奇想天外なストーリーが開始する。

 「ダンチュラ・デオ」とは何のか?喜三郎とは誰なのか?有森とは誰なのか?アルルは何者か?ありとあらゆる登場人物の正体が謎に包まれ、何が真実なのか、読者は混乱の海の中に飲み込まれていく。ハードボイルドな描写や、めまぐるしいストーリー展開。僕らにできることは、ただただ作者を信用して、末尾まで読み進めるだけである。

 

 しかし、これが「ポスト真実」か、、、といった唸るような衝撃や感動は起こらず、全体としてOO7のようなスパイが活躍するアクション映画のような、陳腐な物語といった読後感が残ってしまった。

 とはいえ、これは今まで読んだことのない、斬新な小説であることは間違いなかった。

 Wikipediaの体裁を取りながら物語を進行させるアイデアは興味深い発想だった。が、それも一種のレトリックとして用いているだけで、実際のWikipediaのページ本文のようにはなっていないという点も、残念に思われた。これを仮に、本物のWikipediaのページを模したように書かれていると、より面白いと感じた。

 ロックバンドという素材も、本作のハードボイルドな文体によくフィットしていると感じたが、もし「ポスト真実」をテーマに小説を書くのだとしたら、別のアプローチもあり得ただろう。

 

 

ジャップ・ン・ロール・ヒーロー

ジャップ・ン・ロール・ヒーロー