佐々木隆治『カール・マルクス』を読みました。

 

 卒研等でなかなか読書が進まず、18日ぶりの更新となりました。

 

 さて、これからマルクスの『資本論』を読んでいこうと思っていて、そのための予習として本書を読みました。知人に良いと勧められて読んだのですが、予想以上に読み応えのあるたいへん濃密な内容の本でした。僕も含めてこれからマルクスを読んでいこうと思っている読者に対して本書は以下の点で優れた入門書であると言えると思います。

 第一に、本書がマルクスの最新の研究の成果を取り入れているということです。筆者はMEGAという新しいマルクス全集の編集にも携わっており、特にこの全集に収録されるマルクスの抜粋ノートに基づき、晩年のエコロジー、共同体論、ジェンダーといった多彩な研究志向を持っていたことなども明らかにされます。

 第二に、これが『資本論』の解説書に止まらず、マルクスの評伝的な要素も含んでいるということです。とりわけ第1章では、初期の若きマルクスの姿が、文献のみならず、父親や友人らとの書簡などの多彩な資料に基づき、彼の思想や私生活の一面を鮮やかに描き出しています。特に、イェニーとの結婚ややエンゲルスとの交流などはマルクスの素顔に迫る上で重要なトピックスでした。

 第三に、『資本論』を読解する上でのキーワードを、段階的に整理し、コンパクトにまとめているという点です。もちろん『資本論』の内容をこの一冊で理解できるはずはなく、実際僕も半分くらいしかわからなかったのですが、何が重要なキーワードなのかといったポイントはざっくりと抑えることができました。それに加えて本書では、『資本論』をいくつかのステップを踏んで順に解説を進めているので、自分はどこまで理解して、今後どこから理解を進めれば良いのかの見通しもつきやすかったです。ちなみに著者の佐々木隆治による『マルクス 資本論』という角川選書の文献も近年出版され、次にそちらに当たってさらに理解を深めようと思っています。

 

 改めて本書の構成をまとめると、第1章では、初期マルクスが文学、哲学から社会科学へと移行していく過程が忠実に辿られ、第2章では、『資本論』を、商品、貨幣、資本、恐慌、資本主義の起源と運命というアングルから、コンパクトにかつ正確に読み説かれていきます。(しかし結構難しい。) そして第3章では、晩年のマルクスの「物質代謝」という思想に注目し、彼がエコロジーや共同体論、そしてジェンダーまで広大な範囲までおよぶ思想を展開していた様が語られます。以下にそれぞれの内容を簡潔にまとめておきます。

 

 第1章を一言で言うと、マルクスの文学、哲学から社会科学への移行ということになると思います。初期マルクスは、「否定の契機」というダイナミックな理性を以って、近代社会=立憲君主制を変革するというヘーゲル哲学のラディカルな側面に注目した青年ヘーゲル派の一人であるブルーノ・バウアーと、現実に生きる感性的人間としての人間から哲学を構築しようとした「ヒューマニズムの哲学」のフォイエルバッハという二人の人物から多大な影響を受けますが、彼らはともに「意識の変革」という啓蒙主義の枠組みにあり、マルクスは次第にそれらを否定的に乗り越えようとしていきます。1843年から『独仏年誌』において発表された二つの論文においては、市民社会における利害衝突と近代国家の二元主義というヘーゲルの枠組みを民主制によって打開するのではなく、市民社会それ自体の分析によって克服されなければならないというビジョンに到達します。さらにその変革の担い手はプロレタリアートであるとし、理念による社会変革という青年ヘーゲル派から脱却していったと言います。その後、『経済学・哲学草稿』で、「疎外された労働」という市民社会における疎外を理論的に把握するベースを確立し、「なぜ、いかにして」疎外が生じているのか、現実的諸関係を分析し、その変革の可能性や条件を明らかにする「社会科学」の方向へと向かっていき、フォイエルバッハの哲学からも離れていきました。

 第2章では、いよいよ『資本論』の解説に入ります。マルクスは資本主義を分析するときに、最初に「商品」に注目しました。商品は資本主義においてこそ全面化するものだからです。商品には使用価値と交換価値という二つの価値がありますが、後者は需要と供給の関係から説明されます。しかし、需供関係が一致している場合の価格の乖離は、より多くの労働が費やされている商品ほど自然価格は大きくなるという「労働価値説」によって説明されます。労働価値説はマルクスが最初に考えた概念ではありませんが、彼は社会の物質的な再生産というシステムから客観的にその「価値」を分析しようとしたところに新規性があるといいます。(労働価値説の自然価格をマルクスは「価値」と呼び、この価値は価格変動の中心点であると説明されるのですが、分かったような分からないようなといった感じです。) 社会の物質的な再生産とは、適切な労働の配分と、生産物の配分がありますが、私的利害に基づいて自由に交換するだけの市場システムがどうしてこの再生産の仕組みを維持できるのかという問いが出てきます。そこで、マルクスは労働を有用労働と抽象的人間的労働という二面性を持つものとして捉え、それぞれの社会的意義を各々商品の使用価値と、商品の「価値」に表すことで、労働の社会的配分を可能にしていると説明されます。ここまではなんとか分かったつもりなのですが、この後の物象化や価値形態論から先は、十分に理解できませんでした。キーワードはなんとなく抑えることができたので、それらをじっくり時間をかけて理解していきたいです。

 第3章は個人的に一番興味深く読んだ章です。マルクスが化学者のリービッヒからインスピレーションを得た「新陳代謝」という概念を、「人間と自然との物質的な循環」という意味で捉え、経済社会の循環活動を説明するアナロジーとして利用したと言います。マルクスは、人間が自然の一部であることを前提に考え、人間が自然との物質代謝を自分の意識的な行為によって媒介し、規制し、制御することこそが労働であると考えていました。これは『経済学・哲学草稿』の疎外された労働とも深くつながるものだと感じました。

 

 と、ここまで長々と書いてきましたが、正直理解は50%くらいです。結論を繰り返すと、本書はマルクス入門として最適な一冊です。内容はそれなりに歯ごたえがありますが、本書から徐々に勉強を深めていくことも容易だと思います。おすすめです。