池上彰『知らないではすまされない自衛隊の本当の実力』を読みました。

 

 本書は フジテレビの番組「金曜プレミアム『池上彰緊急スペシャル!』」(2017年8月4日放送)を書籍化したものです。そのため、すでに番組を見た方は読む必要はないと思います。

 構成としては大きく2つの部分に分かれており、その前半は、海上自衛隊航空自衛隊陸上自衛隊のそれぞれについて、どんな装備でどんな仕事をしているのか、その実相(?)が説明されます。(?)をつけたのは、ここに書かれていることは自衛隊の一面に過ぎないと思うからです。当たり前ですが、TVや本を通じて流通しても問題ない情報のみが紹介されます。例えば、海上自衛隊の特別警備隊についてや、航空自衛隊が2016年にアメリカのLockheed Martinから購入したステルス戦闘機F-35Aなどの情報は機密であるとして伏せられています。また日米合同軍事演習についてなどは、無論一言も触れられません。後半は、そもそも自衛隊憲法と矛盾しないのか、自衛隊はどこに起源があるのか、近年どう任務が拡大したのか、歴代の首相は自衛隊をどう捉えてきたかといった、より本質的な議論がなされます。そして最後には、仮に北朝鮮から実際に日本にミサイルがなされた場合の「Xデー」を想定し、ミサイルをどう迎撃するかがシミレーションされます。番組一つ分の内容なので、1日でさくっと読めます。とはいえ、個々人が自衛隊をどう位置付けるのかを判断するに際して、最低限必要になる知識は得られるのではと思います。

 

 そもそも自衛官は、総理大臣や国務大臣、裁判官などと同様の特別職国家公務員で、現在22万4422人の人員がいます。そしてアメリカの軍事力評価機関であるグローバルファイアパワー(DFP)が、50の指標をもとに試算したランキングによると、2017年では日本の軍事力(防衛力)は世界7位で、ドイツやイタリアを上回る評価がされています。自衛のための「必要最小限」の実力とされるものの内実を、もう一度客観的に見定める必要があると思いました。

 

 本書で描かれる自衛隊発足までのストーリーは以下のようでした。まず、朝鮮戦争を契機に、当時日本に駐留していた米兵75000人のほぼ全てを韓国に送り込んだことでできた空白を埋めるために、「ナショナル・ポリス・リザーブ」つまり、警察を予備する「軍隊」をつくるようアメリカから支持されたことから警察予備隊を発足させます。その後51年のサンフランシスコ平和条約の調印で日本が独立するにあたり、アメリカは再び再軍備を求めたことから、保安庁を設け、52年保安隊が発足します。さらに53年朝鮮戦争が休戦状態となり、アメリカが製造していた大量の兵器が残ってしまい、それを日本に買うように求めたことをきっかけに、日本は防衛力の増強を決断し自衛隊法を作り、54年に自衛隊が誕生するといった感じです。しかし日本は憲法9条で、軍隊は保持できないことになっているので、旧日本軍が使っていた呼称、海外の軍隊が使用している名称は使わないようにしているようです。また海上自衛隊護衛艦「いずも」について、2014年、中国のメディアは空母=攻撃型の実力だと報道しましたが、それに対して、防衛省は「大規模災害や国際緊急援助にも使える多目的艦で、打撃力を持つ戦闘機を載せる構想がない」と説明しました。このあたりが、科学技術は軍民両用=デュアルユースであることを口実に、防衛省の科学研究に対する資金のファウンディングがなされることと共通するものがあるような気がします。「軍事」は憲法上タブーであるので、それをさけるための一つのロジックだと思いました。 

 

 もう一度憲法との関連に話を戻すと、自衛隊をめぐる憲法議論を三つの立場に分類します。すなわち(1)自衛隊憲法9条の解釈の下で存在してきたのだからそのままでいい、(2)矛盾しているので憲法を変えるべき、(3)矛盾しているので、自衛隊をなくしたほうが良い、というものです。そして今の安部政権は「自衛隊をそのまま憲法に書き込む」という四つ目の論点を提示しています。いずれにしても、自衛隊の発足までの変遷にアメリカからの要望が強く働いていたことを考えると、それらの是非は、アメリカとの関係、具体的には日米安保との関係と切り離して議論できないと思います。ただその一方で、国際政治のパワーバランスに基づくような土俵ではなく、一人の民衆として、二度と戦争を繰り返してはならないという思いから、例え日本が戦勝国であったとしても、現在の9条に書かれている理念を実現したいという思いは、個人的にはなかなか捨てきれないとも思います。

 

文献:池上彰『知らないではすまされない自衛隊の本当の実力』(SB新書、2018年)

 

 

知らないではすまされない自衛隊の本当の実力 (SB新書)

知らないではすまされない自衛隊の本当の実力 (SB新書)