人工知能について考える(1):山本一成『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』

 

 今人工知能がたいへん注目されているにも関わらず、漠然とした知識しか持ち合わせておらずいけないなと思ったので、少しずつ考えていきたいと思います。

 

 まず本書のレビューの前に、ほとんど何も知らない現時点で僕の人工知能に対する感じ方を率直に記しておこうと思います。

 

 正直にいって人工知能の凄さについていまいちピンときていません。将棋やチェスの大会で名人を次々と倒してとても話題になり、一部の技術は医療に応用されているなどの話を耳にしますが、あくまで局所的な能力に限った話で、全体として人間の知性を超えるということについては半信半疑でいます。
 むしろ社会にあたえた影響という点で言えばインターネットの方が大きかったのではと思います。「AIが人間の職を奪う」という話もよく耳にしますが、これもほとんどイメージが湧きません。(もちろん僕がまだ働いていないからということもあると思いますが、)職に関して言うならインターネットもかなり大きな影響を与えたと思います。 
 それから人工知能と法の問題には漠然と関心があります。仮に自動運転機能を搭載した車が事故を起こした場合、会社と運転手のどちらにどれだけ責任があるのかとかについては結構疑問に思います。

 

 さて、本書ですが、著者は「電脳戦」で5戦全勝を果たした現時点で最強の将棋プログラムである「ポナンザ」を開発者の山本一成という方です。試行錯誤の製作過程を振り返りながら強化学習や深層学習などについて、数式を用いず分かりやすく解説しており、AIの入門書としても読めると思います。ただし学問的な観点から人工知能についての説明はあまりありません。その一方、開発者だけしか感じることのできない様々な示唆に満ちています。
  
 人工知能における課題とは、「今まで不可能だった問題を計算可能にすること」という説明は納得しました。コンピュータにとってチェスよりも将棋、将棋より囲碁の方が難しいのは、局面の良し悪しを計算可能な言語に落とし込む作業が困難だったからと理解しました。
 ただ一方でディープラーニングについては人間の神経回路を模した多層構造をしているなどといったよく聞く説明に終始していて、なぜ画像処理能力に長けているのかの根拠等についていまいち理解できませんでした。

 個人的に興味深い点を挙げると、まず開発においてすでに「プログラムの理由や理屈がわからない」という「黒魔術」の部分が含まれているという点です。
 例えばポナンザは「複数のコア(脳みそ)がバラバラに一つの処理をする」という緩やかな並列化(=怠惰な並列化)」を取り組むことで強化されたそうですが、それがなぜうまくいくのか開発者もよく分からないそうです。ただ経験的にうまくいったというだけの話です。これを著者は要素還元主義に関連付けています。僕たちが教育で触れる科学は物事を分解し細部の構造を理解していけば全体を理解できるという要素還元主義の科学で、それが多くの技術への応用を可能にしているのも事実です。しかしポナンザのプログラムやディープラーニングは還元主義の考え方では理解できない黒魔術を含んでいて、研究者たちはモヤモヤしたよくわからないものであることを受け入れるしかないと言います。
 
 また「知能とは画像である」という著者の想像は考えさせれました。
 考えてみれば人間が脳内で見ているものは3次元を2次元にした画像です。逆に1次元の数字の列をわざわざ二次元の画像(グラフ)にして解釈したりします。だから人間はつまるところ2次元の画像にできるものしか認識できないのではないか。だから4次元の世界を認識できないともいえる。また目は脳の付属品ではなく目があったから脳が進化したという説もあるそうです。

 最後にシンギュラリティについてです。これは人工知能が人間を超え加速度的な成長を遂げ、従来の世界とは不連続と思われる新しい世界に変化する歴史上のポイントのことで、カーツワイルは2045年と予想しているというものです。著者もシンギュラリティは必然的に起こるだろうと考えています。そのとき人口知能は人類は滅ぼすことになるのかについてですが、人工知能が危険な存在になるかどうかは「人類自身の問題」になると言います。
 グーグルの写真管理アプリであるグーグルフォトが肌の黒い人が写っている写真を「ゴリラ」とタグ付けしてしまい担当者が謝罪するという事件がありました。なぜ間違えてタグ付けしてしてしまったのかというと、グーグルはネット上の大量の写真データと関連文章を収集して活用し、文章中の単語をタグ付けとして利用していますが、このとき残念なことに「悪意のある」タグも吸収してしまったからです。
 もちろん現段階で人工知能は自身を改良していくことはできませんが、人工知能が人間から卒業したとき、その超知能を「失望」させないようにネットを含む全ての世界でできる限り「いい人」でいることが大事なことだと結論しています。
 深いなあと思いました。そしてその「いい人」とはどんな人かについては人工知能の研究者でなくとも全員に関係する議論だと思います。

 
 人工知能の凄さについていまいちピンときていないという最初の印象は少しナイーブだったかなという気がしています。コンピュータの成長は指数関数的で(ムーアの法則も有名ですが)、直感的には理解できないスピードということを考慮すれば、現段階ではピンとこなくて当たり前だともいえるからです。ただこれから先脅威的な速さで進化していくのかもしれません。

 

 

 

文献:山本一成『人工知能はどのように「名人」を超えたのか?ー最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機会学習・深層学習・強化学習の本質』(ダイヤモンド社、2017年)