初恋とは?:トゥルゲーネフ『初恋』

 

あなたは誰かに自分の初恋のことを話せるだろうか?
もし躊躇うのだとすればそれはなぜだろう?
それは幼稚さと恥辱に満ちた苦い思い出だからだろうか。
あるいは初恋なんてなかったからなのか。
あるいはそれを初恋と呼ぶことを躊躇うからなのか。

 

いや、そもそも初恋とは何だろう。
それは初めて恋の味を知ったみずみずしい青春のシンボルだろうか。それとも数日経って消えてしまうような一時的な神経の興奮といったものなのか。
そういえばなぜそれは愛ではなく恋なのだろう?
初めての恋。初めてというからにはそれが最初で最後の恋でない限り、それは必ず切ない結末に終わる運命なのだろうか。

 

いずれにしてもこの本はきっと少なくとも二つのことを教えてくれる。
世の中にはとても美しい初恋があるということ。そしてそんな初恋を持てた人はーそれが切ない結末であれー幸福だということ。

そして本当の幸福はそれを見る人をも幸福にするものだ。

 

 

 

 細かい感想を挙げるとすれば、まず自然描写の素晴らしさだ。無駄のない厳格な描写は単なる感傷的な作用を生むだけではなくて、主人公の初恋に欠かせない要素だと思う。「解説」によると二葉亭四迷はトゥルゲーネフの自然描写の卓越性をいち早く認識していたそうだ。

 また、佐々木中の本でドストエフスキーらが活躍した1850年のロシアの文盲率が9割程と凄く高かったということを読んだことがあるが、そんな状況がこの小説にも垣間見える点が興味深い。伯爵令嬢の身分であってもきちんとした文で手紙が書けなかったのだから。


文献:トゥルゲーネフ『初恋』沼野恭子訳(光文社古典新訳文庫、2006年)

 

 

初恋 (光文社古典新訳文庫)

初恋 (光文社古典新訳文庫)