yokoken001’s diary

読書メモ・レジュメ・レポートなど

『津田梅子 – 科学への道、大学の夢』(2022年) 書評・感想

古川安『津田梅子 – 科学への道、大学の夢』(東京大学出版会、2022年) 津田梅子といえば、日本の女子教育の発展を牽引した人物、あるいは現在の津田塾大学の創始者といったイメージが定着しているように思うが、本書は科学史家の手によって生物学者という津…

夏目漱石『それから』

小説に浮気してしまったが、今このタイミングで、『それから』を読めてよかったとも思った。 主人公の代助と僕自身の境遇はかなり似ている。30歳に近づき、同僚はほぼ全員フルタイムのサラリーマンとして毎日忙しなく働いているのに、中には結婚をして子ども…

ダーウィンルーム読書会を終えて (2022年、4月13日)

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫、2016年)の読書会をダーウィンルームでオンライン開催し、縁があってこの読書会のキュレーターを務めさせていただいた。ホストや親切なスタッフの方々の支援もあり、無事終了…

Takashi Nishiyama, 2014, Chapter 1 .

第一章では、まず日本の高等工業教育史が外観される。著者はその発展を4つの戦争(日清、日露、WW1、アジア・太平洋戦争)と関連づけながら振り返る。なぜなら、戦争は中央ないし地方の政府に、工学教育機関を新設・拡大するための理由や財源確保を正当化した…

Takashi Nishiyama, 2014, Intro.

Takashi Nishiyama, Engineering War and Peace in Modern Japan, 1868-1964. (Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2014). 本書は、戦前・戦後を貫く時間軸(1868-1964)を採用することで、総力戦とその敗戦の経験が、どのような技術や文化を形成した…

L.D. Reich, The Making of American Industrial Research (5)

Chapter 5 General Electric: The Research Process 本書では、「研究所」を、(1)科学・技術の深い理解を持つ訓練された人間によって研究が行われ、(2)生産部門から分離され、(3) 短期的な企業の営利目的ではなく長期的な会社のニーズに対して責任を持つよう…

L.D. Reich, The Making of American Industrial Research (4)

Chapter 4 Origins and Early History of the General Electric Research Laboratory (pp.62-96) 第四章は、1900年にGEの企業内研究所が設立されてから1920年頃までの歩みが記述される。具体的には、同研究所の役割、経営陣/研究者陣のパワーバランスの変化…

L.D. Reich, The Making of American Industrial Research (3)

Chapter 3 The Establishment and Early Growth of General Electric (pp.42-61) 第三章のテーマは19C末における米国の電気産業の様子と、GEが誕生する経緯、初期のGEの企業体質についての分析である。 1892年にEGEとT-Hが合併してできたGEの当初の企業体質…

L.D. Reich, The Making of American Industrial Research (1)

Lenard D. Reich, The Making of American Industrial Research: Science and Business at GE and Bell, 1876-1926 (Cambridge: Cambridge University Press, 1985) 英語は読みやすくなく、険しい山であるが、無線史をやる上で読まなければならない文献の一…

武井彩佳『歴史修正主義』(中公新書、2021年)

今年最初に読了した本は、武井彩佳『歴史修正主義- ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』(中公新書、2021年)だった。読みながらため息をついてしまうほど、なかなか素晴らしい本だった。(もちろん、100%満足しているわけではない。) 歴史修正主…

辻哲夫『日本の科学思想』第三章

読書会の予習というよりも復習。 (これまでの梗概) 西欧科学・技術を一つのプロトタイプとして、日本はそれにキャッチアップしようとしてきたという歴史観を採用するのならば、明治維新以前の日本に科学はなかったか、少なくとも限定的な形でしか存在しなか…

辻哲夫『日本の科学思想』第二章

読書会の予習です。 第二章 実理 – 伊藤仁斎・古医方(こいほう)・加藤弘之 日本史における近代と近世 (pp.33-35) 通念としての17C=徳川幕府が全国を平定し、鎖国・封建の治世を開始する「近世のはじまり」=「非近代」 ※この場合の「近代」とは、日本内部で…

辻哲夫『日本の科学思想』第一章

辻哲夫『日本の科学思想』(こぶし文庫、2013年) 読書会の予習です。 非常にthought-provoking。議論が丁寧で面白い。 序章で説かれているのは、ある種の多元主義(pluralism )と言って良いのではないだろうか。科学が「普遍である」とよく言うが、時間的にも(…

和田, 2018

和田正法「工部大学校の終焉と帝国大学への移行をめぐる評価」『科学史研究』第57巻(2018年)、186-199頁。 明治4年に設けられられた工部寮は明治10年に工部大学校と名称を変え、同年初めての入学生を受け入れた。工部大学校は明治18年に文部省に移管され、翌…

和田,2016

科学史学校での講演をまとめた「科学史入門」のシリーズから。著者による既出の複数の論文を俯瞰的な視点からまとめ、一貫したストーリーに落とし込まれている。 和田正法「工部大学校と日本の工学形成」『科学史研究』第55巻(2016年)、178-182頁。(ここから…

和田,2014

工部大学校の学科の全卒業生211人のうち最も多かったのは鉱山科(48人)であり、その次が土木科(45人)だった。その意味で土木科は同校の主要な学科であると言え、本科での実地教育の内実を明らかにすることは重要な課題だろう。 和田正法「工部大学校土木科の…

和田,2012b

どうして工部大学校が日本の工学の形成に影響を与えたと言えるかと問われれば、それが工学会を設立したからである。工学会は、日本における工学分野の学協会の先駆けである。「工学」とは「学問的に体系化された技術」であるとすれば、その工学の形成にとっ…

和田,2012a

最近は和田氏の工部大学校関連の論文をフォローしている。これは『化学史研究』に投稿された、工部大学校化学科にフォーカスした論文。非常に実証レベルが高く、推論過程も精緻。以下は要約とコメント。 和田正法「工部大学校における化学科の位置付け- 実地…

和田, 2010

和田正法「工部大学校創設再考 – 工部省による工部寮構想とその実施」『科学史研究』256号(2010年)、86-96頁。(ここからDL可) 以前或る学会で、海外の研究者から日本の電気工学教育の歴史について(いつ始まり、どんな特徴があるのかなど)質問を受け、面食ら…

大江健三郎『個人的な体験』再読。

大学1,2年(19,20歳)の頃、この小説を初めて読み、これは今まで読んだ小説の中で一番好きな作品なのではないかと思った。そしてその後、今に至るまで6年くらいが経過して、小説の中身の大部分は忘れてしまったが、おそらくその後に読んだ小説も含めて、最も好…

Merritt Roe Smith (ed), Military Enterprise and Technological Change: Perspectives on the American Experience, MIT Press, 1987.

或る研究会でコメントいただいた先生に推薦された本である。以下では序章をまとめているが、技術の変化と軍事的活動との関係をめぐる諸論点が包括的に整理されている。編者であるMerritt Roe Smithは、MITで長らく教鞭を執られた技術史家で、深い技術史的素…

Hunt (1991), Intro-Chapter 1

Bruce Hunt, The Maxwellians, Cornell University Press, 1991. 電磁気学史の古典。読んでいないとまずい本。 Introduction (pp.1-4) マックスウェルの電磁場理論は、19世紀だけではなくあらゆる世紀における最も顕著な知的達成であるとみなされている。晩…

平野啓一郎『本心』を読みました。

『ある男』から三年、新作の長編『本心』が5月26日に刊行された。 少しだけ時間が取れたので、久しぶりに小説を読もうと思い、手にとったのが本作である。 物語は、今からおよそ20年後である2040年の日本が舞台とされる。AIやVRといったテクノロジーが日常生…

電子部品について学びながら3石トランジスタラジオを作る

以前、ゲルマニウムラジオの製作に挑戦したのですが、残念ながら受信することができませんでした。今回は前回に比べてより受信感度が良いと思われる電池を用いたトランジスタキットを購入し、リベンジしました。 製作に際しては、電子部品についても少し調べ…

Gary L. Frost(2010), Conclusion

Conclusion (pp.135-142) 終章では、社会構成主義/技術決定論の是非、イノベーションにおける自然法則の意味、アクターネットワーク理論に関する議論、FMラジオの将来など、(序章で設定された)技術史における主要なトピックと関連付ながら、やや俯瞰的な立場…

Gary L. Frost(2010), Chapter 5

Chapter 5 FM Pioneers, RCA, and the Reshaping of Wideband FM Radio, 1935-1940 (pp.116-134) 第五章では、1935年から1940年までのFM技術の展開が扱われる。1935年にニューヨークで行ったアームストロングによる広帯域FMの演示の後においてさえも、RCAは…

夏目漱石『草枕』

大学1年生くらいの頃から今まで、おそらくは4、5回くらい『草枕』に挑戦したが、毎回途中で挫折してしまった。そして、25歳の今、漸く初めて通読することができた。 それにしても、他の漱石の作品に比べて、『草枕』は言葉が圧倒的に難しい(ように感じる)。…

Gary L. Frost(2010), Chapter 4

Chapter 4 The Serendipitous Discovery of Staticless Radio, 1915-1935 (pp.77-115) 第四章では、アームストロングがコロンビア大学の学生であった時期まで遡って、空電の影響を抑制するFM技術がいかに発見されたのかが述べられる。技術的な細部については…

すばらしき新世界

Aldous Huxley著のBRAVE NEW WORLD(1932年)の全訳。訳者は大森望で、「めっぽう面白いSFを訳すつもりで日本語化」することを目指したという。ちなみに祖父のトマス・ヘンリー・ハックスリーはチャールズ・ダーウィンの犬として知られる、進化論を支持した生…

Gary L. Frost(2010), Chapter 3

Chapter 3 RCA, Armstrong, and the Acceleration of FM Research, 1926-1933 (pp.61-76) 第三章では、1926年から1933年にかけて、RCAやアームストロングが行ったFM研究が扱われる。分量的には多くないが、語彙のレベルが高く、比較表現や仮定法が散見され、…