科学史・科学哲学・科学社会学

吉岡斉『科学革命の政治学』を読みました。

本書は著者の3冊目の単著で、科学社会学の分野では、前作『科学社会学の構想』に続いて書かれた2冊目の作品である。ここでは、『科学文明の暴走過程』で展開されるジャパニーズ・モデル/アメリカン・モデルといった図式の萌芽も見られ、開放系モデルに基づく…

吉岡斉『科学文明の暴走過程』を読みました。

本書の主題は、「科学技術体制」(=研究開発活動のマクロの推進メカニズム)の構造に関する一般理論の骨子を示すことにあり、科学技術社会学の分野におけるやがて書かれるであろう『資本論』の基本的筋書きを示すものであると書かれている。(実際、その『資本…

論文review

1 河村豊「旧日本海軍における戦時技術対策の特徴-第二次大戦期の実用レーダーを事例に」『科学史研究』第40巻通号218(2001年)、75-86頁。 本稿では、旧日本海軍のメートル波レーダーの設計、製造、配備の実態を明かにし、日本のレーダーに対するこれまでの…

水沢光『軍用機の誕生-日本軍の航空戦略と技術開発』を読みました。

きっかけ:戦前・戦時期の日本の軍用機の研究開発について知りたい。 良い点:明快な論理展開でわかりやすい。図表も豊富で、イメージを膨らませながら読むことができる。軍事史的背景も詳しい。 悪い点:あくまでも一般向けの書籍で、注釈等は省略されてい…

山本義隆『近代日本150年-科学技術総力戦体制の破綻』を読みました。

きっかけ:軍事と科学という卒論の研究テーマと密接に関わる。 良い点:日本近代化の150年の歩みを、科学技術総力戦体制の拡大と破綻というストーリーで描いた力作。 悪い点:「体制化」図式の限界など。 評価:A その他メモ:池内了氏による書評あり(有料)…

マイケル・サンデル『完全な人間を目指さなくてもよい理由』を読みました。

Michael J. Sandel『The Case against Perfection: Ethics in the Age of Genetic Engineering 』の邦訳です。 きっかけ:エンハンスメントに対して、自分の立場を明確にしたい。 良い点:とても面白い。緻密な論理、慎重な言葉の選択など、優れた議論を展開…

横山輝雄『生物学の歴史-進化論の形成と展開』を読みました。

きっかけ:生物学史が知りたい。 良い点:コンパクトで読み易い。また科学と宗教(キリスト教)が、単純な対立関係にあるのではなく、両者が絡み合ってきたという点について、理解できる。 悪い点:生物学史のテキストだが、進化論を中心とした歴史で、解剖学…

ウィリアム・バイナム『医学の歴史』を読みました。

本書は、『The History of Medicine: A Very Short Introduction』の邦訳です。 きっかけ:医学史が知りたい。 良い点:構成が工夫されている。具体的には、臨床、書物、病院、共同体、実験室という5つ類型に分けて、それらが歴史的に重層していく様を記し、…

中山茂『天の科学史』を読みました。

天文学の通史を学びたくて、『天の科学史』を読んだ。著者の中山茂は、大学で天文学を、大学院でアメリカに留学して、トマス・クーンに会い、科学史を学んだ。中山茂氏のよく知られた仕事の一つはクーンの『科学革命の構造』の邦訳である。実際、本書ではパ…

Review:水沢光「第二次世界大戦期における文部省の科学論文題目速報事業および翻訳事業ー犬丸秀雄関係文書を基に」

本論文では、第二次世界大戦期における文部省の科学論文題目速報事業と翻訳事業を分析することで、文部省の「科学研究の戦力化」とは異なった、科学動員の実相をより多面的に描くことを目的としている。青木、河村らの先行研究では、1943年の「科学研究の緊…

橋本毅彦『図説科学史入門』

本書は、図像を題材に取り上げた科学史の入門書であり、天文、気象、地質、動物と植物、人体、生命科学、分子・原子・素粒子という7つの自然科学の各分野の歴史を詳細に解説している。以下では、偶数の章を、それぞれ特定の観点から再構成し、関連する内容を…

田中浩朗 科学技術動員体制史から見たデュアル・ユース研究の推奨-「デュアル・ユース化」の視点 (2018.6.5火ゼミ、於:東工大)

火ゼミに参加させていただき、田中先生の発表を拝聴いたしました。私の理解できた範囲内で、内容を以下にまとめたいと思います。 2015年より、防衛省の競争的資金制度である「安全保障技術推進制度」が創設された。将来的には防衛分野の研究開発に資すること…

小林信一「科学技術・イノベーション政策のために第7回-デュアルユース・テクノロジーをめぐって」

【概要】 2015年に発足した防衛省の安全保障技術研究推進制度を契機に2017年日本学術会議で「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、軍事目的のための科学研究を行わないといった過去の声明を継承するとともに、軍事的安全保障研究とみなされる可能性の…

リチャードR.ネルソン『月とゲットー:科学技術と公共政策』

本書の問いは、我々は人を月に送ることができる科学技術を持っているにもかかわらず、都市の貧困、犯罪といった問題を解決できないのは何故か、という大胆でかつ深刻な問題である。この本は、この問題に対する解決策を提供するものではなく、これらをめぐる…

[Review]森脇江介「戦時期日本の科学振興政策-科学研究費交付金の創設と運用」

ご本人から頂いた修士論文を拝読致しましたので、以下に概要をまとめさせていただきます。科学振興調査会と帝国議会の議事録をもとに科研費創設の過程と運用を分析した、戦時科学史研究にとっては重要な論文だと思います。なお本論文は、駒場キャンパス16号…

今週読んだ雑誌論文や論考の概要など

(1)青木洋「第二次世界大戦中の科学動員と学術研究会議の研究班」『社会経済史学』第72巻第3号(2006年)、63-85頁。↓ https://www.jstage.jst.go.jp/article/sehs/72/3/72_KJ00005697928/_pdf/-char/ja 本稿では学術会議の研究班を取り上げ、その活動の経緯、…

古川安『科学の社会史−ルネサンスから20世紀まで』(後半)

1760年代から1860年代にイギリスで起きた産業革命の担い手は伝統的職人層だった。化学を除けば、そこではここの新技術の誕生に大きな役割は果たさなかった。むしろ伝統技術の改良、応用、創意工夫で成果をあげた。しかし逆に、産業革命は科学に以下の影響を…

古川安『科学の社会史−ルネサンスから20世紀まで』(前半)

16ー17世紀の西欧近代の幕開けに成立した近代科学と今日の科学は、その内的側面以上に、社会的側面において、大きな変化を経験した。当時大学では科学の専門教育は行われていなかった。科学は私財を投じるか、裕福なパトロンに財政援助を受けることで初めて…

今週読んだ雑誌論文や論考の概要など

(1)青木洋・平本厚「科学技術動員と研究隣組-第二次大戦下日本の共同研究」『社会経済学史研究』通号68号(2003年1月)、501-522頁 ↓ https://www.jstage.jst.go.jp/article/sehs/68/5/68_KJ00004582648/_pdf/-char/ja 本稿では、太平洋戦争末期に2年弱の間に…

広重徹『科学の社会史(下)–経済成長と科学』

(前のページからの続き) 第7章では、教育に焦点が当てられる。大正時代に実現した高等教育拡張の負の遺産として、卒業生の直面した進学難・就職難があった。1931年文部省が提出した改革案を皮切り位に議論が盛んになったが、多くの改革案に共通する特徴とし…

広重徹『科学の社会史(上)-戦争と科学』

普通「社会史」というと、歴史学の講義などではこう説明されると思う。19世紀のマルク・ブロックらに代表される実証主義歴史学は、国ごとの政治の流れを中心とした歴史が主流で、政治上重要な人物や法律の制定などに焦点が当たっていた。一方で政治上重要な…

今週読んだ雑誌論文や論考の概要など

(1)水沢光「日本学術振興会研究費と科学研究費交付金の分野別割合にみる戦時と戦後の連続性」『科学史研究』第53号(2015年)、379-396頁。 1933年に創設された日本学術振興会研究費は、工学分野の応用研究に重点を置いたものだった。それに対して、現在の科学…

劣化ウラン弾の問題に引きつけて:藤垣裕子「科学者の社会的責任 第四回」

前回、『劣化ウラン弾』を通じて、劣化ウランによる被曝と先天性障害などの健康被害との因果関係が「科学的」に証明できないからといって、対策をしないことは良いのかどうかという問題を抽出した。(WHOはイラクにおけるアセスメントの結果、因果関係は明確…

放射性廃棄物の軍事利用:『劣化ウラン弾―軍事利用される放射性廃棄物』

「劣化ウラン弾」という言葉を聞いたことがあるだろうか。劣化ウラン(Depleted Uranium =DU)は、原子力発電や核兵器の製造に必要な濃縮ウランを作り出す過程から大量に生み出される放射性廃棄物であり、それを兵器として利用したものが劣化ウラン弾である。…

中島秀人『社会の中の科学』

『社会の中の科学』は放送大学教材のシリーズとして書かれた教科書である。社会の中の科学という題名から、科学社会学のテキストを想起する方もいるかもしれないが、本書は科学史と技術史が中心に扱われており、隣接分野である科学哲学や科学社会学には軽く…

水沢光「日中戦争下における基礎研究シフトー科学研究費交付金の創設」『科学史研究』第51巻(2016年)、210-219頁。

【概要】 1939年3月に創設された科学研究費交付金(現在の科学研究費補助金の前身)は、それ以前の予算規模に比べて格段に大きく、また基礎研究に重点を置く特徴を持っていた。科学研究費交付金の創設に関しての従来の指摘は、『学制百年史』に、科学振興調査…

今週に読んだ雑誌論文や論考に対するコメントなど

(1)河村豊「戦時科学史から見た軍事研究と科学者」『現代思想』第44巻21号(2016年)、73-85頁 2015年に始まった防衛省による「安全保障技術研究推進制度」及び、2016年に閣議決定された文科省、経産省による「科学後術イノベーション総合戦略2016」を受けて、…

科学/技術の歴史を論理的で明快な思考で読み解く好著:村上陽一郎『文化としての科学/技術』

『文化としての科学/技術』は、科学史家である村上陽一郎による、「岩波講座 科学/技術と人間」の論稿を元に編纂された2001年の本である。出版当時、「日本の構造改革」という言葉が巷に満ち、現実が次々と変革されていく中で、社会の構造や制度的対応が、過…

今週に読んだ雑誌論文や論考へのコメントなど

(1)藤垣裕子「科学者の社会的責任 第3回」『科学』3月号 88(3)(2018年)、229-233頁 第3回目では、主に日本の科学者の社会的責任論にフォーカスされる。まず冒頭で、ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎が、1976年6月28日共立出版創立五十周年記念講演「物…

今週読んだ雑誌論文や論考へのコメントなど

(1)藤垣裕子「科学者の社会的責任 第1回」『科学』1月号 88(1)(2018年)、17-22頁 及び(2)藤垣裕子「科学者の社会的責任 第2回」『科学』2月号 88(2)(2018年)、175-182頁 岩波書店の『科学』に連載中の論考。 第1回では主に科学者の社会的責任の時代区分が論…