文学(小説、詩、戯曲など)

ミシェル・ウェルベック『闘争領域の拡大』を読みました。

『Extension du Domaine de la Lutte』 (1994)の邦訳。ウェルベックの処女作で、長らく手に入りづらい状態が続いていたが、最近文庫化された。平野啓一郎がどこかで推薦していて、ずっと興味があったので、この機会に読んでみた。 主人公の「僕」はソフトウ…

福永武彦『死の島』を読みました。

国内で好きな作家を一人挙げろと言われたら、おそらく堀辰雄か福永武彦かで迷い、結局福永と答えるだろうと思う。彼の工夫された小説の構築手法もそうだが、それ以上に、明快でありながら、音楽のように優しく流れていく文体がたまらなく好きだ。高校のとき…

フランクル『夜と霧』を読みました。

アドルノはかつて、アウシュビッツの後に詩を書くことは野蛮だと述べた。アウシュビッツの収容所で起きた歴史の巨大なトラウマを表象しようとしても、表象した途端にそれは裏切られ、嘘になり、詩人は表象不可能性の臨界で立ち止まらなければならないという…

上田岳弘『私の恋人』を読みました。

『私の恋人』は上田岳弘による発表順としては3番目の小説である。本作品は又吉直樹『火花』との決選投票の末、第28回三島由紀夫賞を受賞した。今年の2月に文庫化され、単行本と共に、カバー装画には、Paul Kleeの"Angelus Novus"が採用されている。 きっかけ…

最も多くを愛する者は敗者である:トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』(高橋義孝訳)

本書に収録された『トニオ・クレーゲル』は、トーマス・マン27歳の頃に刊行された彼の初期の代表作である。ようやく本物の恋愛小説に出会えた、これが読後最初の感想だ。堀辰雄の『菜穂子』、ツルゲーネフの『初恋』、エリアーデの『マイトレイ』など、ため…

文字の表面を追っていくだけで十分:最果タヒ『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

初めて読み終えた詩集。 最果タヒは1986年生まれの詩人、小説家。2006年に現代詩手帖賞を受賞し、2007年詩集『グッドモーニング』を上梓。翌年京都大学在学中、同作で当時女性最年少の21歳で中原中也賞を受賞した。2014年詩集『死んでしまう系のぼくらに』で…

初恋とは?:トゥルゲーネフ『初恋』

あなたは誰かに自分の初恋のことを話せるだろうか? もし躊躇うのだとすればそれはなぜだろう? それは幼稚さと恥辱に満ちた苦い思い出だからだろうか。 あるいは初恋なんてなかったからなのか。 あるいはそれを初恋と呼ぶことを躊躇うからなのか。 いや、そ…

遠藤周作『砂の城』を読みました。

遠藤周作の小説を読むとき思い出すことがあります。 軽井沢高原文庫という文学館には軽井沢にゆかりのある作家の直筆の原稿などが展示されています。その中に遠藤周作の原稿があったのですが、彼は一旦原稿用紙の裏面に細かい字で下書きをしてから、裏返して…

ソポクレス『オイディプス王』を読みました。

森岡正博先生の『生命の哲学と倫理』という講義で、「反出生主義」(自分はもしくは人は生まれてこなければよかったと考える立場)はギリシャ悲劇においていわば通奏低音のように響いているという話があり、この『オイディプス王』が取り上げられていてまし…