yokoken001’s diary

書評を中心に記しています。

ミシェル・ウェルベック『セロトニン』を読みました。

待ちに待った(いや、ものすごく待望していたわけではないのだが、)ウェルベックの最新長編小説『セロトニン』を読み終えた。原著も2019年に出版されているので、パリ在住の関口氏によりかなりスピーディーに翻訳され、日本に輸入されたということになる。 こ…

Chapter10 (Jutta Schickore) ”Scientists’ Methods Accounts: S.Weir Mitchell’s Research on the Venom of Poisonous Snake”

Chapter10 (Jutta Schickore) ”Scientists’ Methods Accounts: S.Weir Mitchell’s Research on the Venom of Poisonous Snake” Integrating History and Philosophy of science (2012),Boston Studies in the Philosophy of Science 263,pp.141-161. 前回に…

Jutta Schickore “More Thoughts on HPS: Another 20 Years Later”

Jutta Schickore “More Thoughts on HPS: Another 20 Years Later”Perspective on Science (2011),vol.19,no.4,pp.453-482 私の乏しい英語で読んだ限り、以下のことが書かれていると思われます。 (解釈学に関する背景知識を持ち合わせていなかったこともあり…

トマス・クーン(中山茂訳)『科学革命の構造』を読みました。

Thomas S. Kuhn “The Structure of Scientific Revolutions”(1962,1970)の邦訳。 1ヶ月くらい(少し盛りました、3週間くらい?)かけて漸く読了した。大変難解で、無限の情報を持ったテクストだ。この類の本は、再読するたびに新たな発見をする書物である。難…

Chapter 2(Jan Golinski) "Thamas Kuhn and Interdisciplinary Conversation : Why Historians and Philosophers of Science Stopped Talking to One Another”

Jan Golinski "Thamas Kuhn and Interdisciplinary Conversation : Why Historians and Philosophers of Science Stopper Talking to One Another”(2013), Integrating History and Philosophy of Science, pp.13-28. 私の乏しい英語力で読解した限り、 以下…

沼田真祐『影裏』を読みました。

『影裏』は、第157回芥川賞受賞作。 すごいんだけれど、好きになれない作品だった。 メチエというか、書く技術は非常に高度であることは間違いない。にも関わらず、書かれている人間や社会に共感することができなかった。後味も、あまりよろしくない。 古風…

栗原聡『AI兵器と未来社会』を読みました。

自律型致死兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapon System)に関する議論が、最近にわかに注目を集めているように感じる。Paul Scharre『ARMY OF NONE』(2018)の邦訳(『無人の兵団』)が今年の7月に刊行され、書店でも平積みにされているのを見た。また…

鴻池留衣『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』を読みました。

何かすごいことが書かれていたという漠とした余韻を残しつつも、結局何が言いたいのかよくわからない作品だった。 単行本の帯に書かれているように、本作は「ポスト真実」の時代をテーマにした作品のようにも思える。というのも、登場するのは、架空のバンド…

坪井大輔『WHY BLOCK CHAIN』を読みました。

中田敦彦のYouTube大学を見て購入した。 www.youtube.com 先日、佐藤靖『科学技術の現代史』で、中央集権型から自律分散型への移行という歴史観が示されているということを書いたが、ブロックチェーンこそ、まさにその自立分散型の技術に該当するのではない…

大淀昇一『技術官僚の政治参画-日本科学技術行政の幕開き』

情報量が膨大で、非常に難解な書物だった。 最低3回は読まないと、理解できないと思った。 ここでは、どんな本だったかということだけを、大まかにスケッチしておく。 本書で、著者は、政府の中の技術者=技術官僚が、明治以来の歴史の中で、いかに自らの地…

ヘリガ・カーオ『20世紀物理学史(下)』19、20章

以下、勉強会で担当になった章のレジュメです。 核物理学は門外漢なので、あくまで大まかな議論の流れを抑えたものになります。 第19章 核にまつわる問題 1 原子核の物理学 ・戦前は、陽子と中性子を原子核内に保持している力についてはほぼ何も知られておら…

北条裕子『美しい顔』を読みました。

本作品は、主人公である高校生のサナエの震災体験をテーマにした物語であり、2018年に第61回群像新人文学賞を受賞した。 著者は震災を体験していなので、参考文献等に基づいた、あくまで実体験をベースにしないフィクションだということになる。(参考文献未…

ダーウィンルーム 読書会を終えて

昨日(9月4日)に開いた読書会には、様々な方面でご活躍をされている11人の方に参加していただき、活発で刺激的な議論をすることができました。 参加者の方々にはもちろん、宣伝等に協力していただき、慣れないキュレーターをサポートしてくださった方々に感謝…

ダーウィンルーム 読書会のお知らせ

読書会のお知らせをさせていただきます。 9月4日に、下北沢にあるダーウィンルームというお店で、佐藤靖『科学技術の現代史』の読書会の開催を予定しています!↓ www.kokuchpro.com DARWIN ROOMでは、月に数回程度「読書会」を開催し、参加者で対象の文献に…

佐藤靖『科学技術の現代史』を読みました。

科学技術が、我々の生きる社会の根本的な様々な「条件」を作り出し、それは資本主義と手をたずさえながら一種の自律的な仕組みを作り上げ、その仕組みが抜き差しならない力をもって、いたるところに歪みを生んでいる。そんな予感を感じている人々は多いと思…

綿矢りさ『大地のゲーム』を読みました。

綿矢りさ『大地のゲーム』を読んだ。 一応最後まで読み終えたものの、この小説世界にあまりコミットできなかった。そのため、内容を十分に理解したとは言い難い。レビューもそのような薄い理解に基づく程度のものであることを、あらかじめ申し上げたい。 読…

野家啓一『歴史を哲学する』を読みました。

本書は、「歴史の物語り論(ナラトロジー)」の立場に立脚した著者の歴史哲学講義である。講義と補講から成るが、以下では講義の部分を簡単に要約しておく。 20世紀の哲学シーンで生じた「言語論的転回」は、哲学上の土俵を自己の意識から公共的な言語へと転換…

澤地久枝・半藤一利・戸高一成『日本海軍はなぜ過ったか―海軍反省会四〇〇時間の証言より』を読みました。

戦後35年を経て密かに始められた「海軍反省会」を記録したテープを元に作られたNHKの番組を書籍化した『日本海軍400時間の証言: 軍令部・参謀たちが語った敗戦』の副読本ともいうべき本。ノンフィクション作家の澤地久枝と半藤一利、呉市海事歴史科学館艦長…

山下範久『教養としての世界史の学び方』を読みました。

本書は三部構成となっている。第一部 わたしたちにとっての「世界史」はいかに書かれてきたかでは、19世紀に成立した学問としての歴史学が本来有している枠組みを吟味し、そのバイアスを解除する方法論が議論される。そして第二部 世界史と空間的想像力の問…

上田岳弘『塔と重力』を読みました。

小説と音楽は全く違う芸術だけれど、ある種の小説を読むことは、音楽を聴くことに似ているところもある。 音楽は聴き終えた瞬間に−−つまり音楽が完成した瞬間に−−全てが消えてなくなってしまう。しかし小説であっても、読み終えたときに残るのは、作品全体に…

小野正嗣『九年前の祈り』を読みました。

本書には表題作のほか、3つの短編、芥川賞受賞スピーチが収録されているが、ここでは「九年前の祈り」に絞って、感想を記したいと思う。 小野正嗣「九年前の祈り」は、第152回芥川賞受賞作だ。 なんとも不思議な小説だった。 しかしその不思議さということと…

岡田暁生『音楽と出会う-21世紀的つき合い方』を読みました。

音楽は目に見えない、無形の芸術である。 さらに、音楽は終わった瞬間つまり完成した途端に、消滅してしまうものでもある。 それは、花火のように切ない。 そんな音楽を「所有」することはできるだろうか? 音楽を所有するとは、一体どんな状態を指している…

高橋弘希『指の骨』を読みました。

僕は戦争が大嫌いなので、戦争をテーマにした映画や小説にはあまり触れてこなかった。 だけど、本来文芸作品には、エンタメということ以上に、何気ない日常に揺さぶりをかけ、感覚を活性化させ、深く傷をつけ、打ちのめされるような経験をもたらすものがある…

吉松隆『作曲は鳥のごとく』を読みました。

作曲家吉松隆の自伝である。 どうしようもないことに、僕は芸術家という人種への憧れを絶えず抱いてきた。特に、小学生のころから親しんできた「純音楽」(クラシック音楽や現代音楽)の作曲家への憧れが強い。 吉松隆は、大河ドラマ『平清盛』の音楽や、クラ…

上田岳弘『ニムロッド』を読みました。

先日、第161回芥川賞が、今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』に贈られたが、本作の『ニムロッド』は、その一つ前の第160回の芥川賞受賞作だ。 上田岳弘作品としては、以前に『私の恋人』を読んだことがあるが、『ニムロッド』はそれに比べてやや読みや…

論文Review

河村豊「レーダー開発計画の決定過程-太平洋戦争直前期の旧日本海軍の取り組み」『科学史研究』第38巻(1999年)、165-172頁。 本論文は太平洋戦争勃発直前・直後の時期に限定し、海軍におけるレーダーに関する(1)計画の存在とその開始時期、(2)計画案を決定さ…

論文Review

河村豊「旧日本海軍における戦時技術対策の特徴-第2次大戦期の実用レーダーを事例に」『科学史研究』第40巻(2001年)、75-86頁。 戦時期における日本のレーダーは兵器としてはほとんど機能しなかったと評価されてきた。本稿の目的は、旧日本海軍のメートル波…

論文Review

河村豊「旧日本海軍における科学技術動員の特徴-第二次大戦期のレーダー研究開発を事例に」『科学史研究』(2000年)第39巻、88-97頁。 少し古い論文だが、学会誌にacceptされた隣接分野の論文ということで、どこが優れているのかを分析してみたい。 本論文で…

Chapter 4 Damming the Empire

『Constructing East Asia: Technology, Ideology, and Empire in Japan's Wartime Era, 1931-1945 』(Stanford University Press, 2013) の第4章を読みました。 以下のようなことが書かれていたと思われます。 水力と広範な技術(pp.150-153) ・広範性という…

佐藤春夫『田園の憂鬱』を読みました。

佐藤春夫『田園の憂鬱』、1919年の作品。 都会の喧騒に疲弊し病んだ青年は、妻と2匹の犬を連れて、武蔵野の豊かな自然に囲まれた辺鄙な家へと引っ越してくる。そこで、主人公は、まるで今初めて視力を得た人間のように、それらの自然を仔細に観察することを…